腸チフスとは
腸チフスはチフス菌という細菌感染にともなう感染性疾患で、感染症法の指定する3類感染症です。
したがって、腸チフスを診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ることが義務付けられています。
腸チフスの症状
チフス菌感染後、1~2週間程度は潜伏期間となり、チフス菌によるなんらかの症状は呈しません。
その後、次第に感冒様の全身症状で発症します。
典型的には発熱や倦怠感、頭痛、食思不振、嘔気を感じるようになります。
全身症状を呈する最初の病期が落ち着くと、次に徐脈(比較的遅い脈)、バラ疹と呼ばれる皮疹が一過性に出現することもあります。
また、この時期には脾腫(脾臓が腫れる)が合併することもあります。
体温は40度前後と比較的高熱を呈しますが、これは稽留熱と呼ばれる熱発形態で、1日での発熱に大きな差がなく(おおむね1度以内)、高熱が持続的に継続します。
この病期においてはチフス性顔貌と表現される無欲様の覇気のない表情を示すようになります。
症状が重篤である場合は意識障害を伴うこともあります。
この病期を過ぎると一般的には回復が近くなり、弛張熱と呼ばれる一定しない発熱によって次第に解熱に向かいます。
過去にはこの病期に深刻な腸管穿孔を呈することもありましたが、近年の抗生剤の進歩により非常に稀なものとなっています。
逆に言うと、こういった腸管出血や腸管穿孔が伴う症例においては、場合によって深刻な転機を迎えるものですので慎重な合併症の管理が必要と言えます。
腸チフスの感染経路
腸チフスは腸内細菌科サルモネラ属に分類されるグラム陰性桿菌で、感染源をヒトに限定する細菌です。
したがって他の動物からの感染などを感染経路に持つことはなく、多くは腸チフス感染のある糞便によって汚染された飲食物によって感染が媒介されることになります。
腸チフス保菌者の有症状者はもとより、無症状の保菌者であっても糞便を介した感染拡大の起こることが示されています。
ただし、一般的に衛生環境の整った地域ではこのような人糞汚染は起こりにいですので、腸チフスの感染制御には衛生状態の改善が欠かせないと言えます。
また、腸チフスは性感染症ではありませんので性行為による感染拡大は認められていません。
腸チフス予防接種時期
腸チフスに関しても、ワクチンが実用化されていますが、日本においてはまだ認められていません。
したがって腸チフスワクチンの接種を何らかの理由で行いたい場合(発展途上国をはじめとした腸チフスリスクのある国外への渡航など)、輸入ワクチンを取り入れている医療機関を受診することとなり、接種可能施設は限られています。
一方で、予防効果は接種者の半数から8割程度であり必ずしも予防接種のみの効果が十分であるわけではないことも知っておかなければなりません。
腸チフス治療方法
腸チフスは細菌感染症ですので、治療の第一選択は抗菌剤投与による根本的治療ということになります。
ニューキノロン系抗菌剤はチフス菌に対して著明な効果を示してきましたが、近年では耐性菌の問題が深刻化してきており、腸チフスにおいても半数以上にニューキノロン耐性のある細菌が認められるようになってきました。
また、この耐性菌は地域間格差が非常に大きく、特に南アジア由来のチフス菌には特に高い耐性率を認めますので同地域で感染を得た症例では、最初からニューキノロン系抗生剤を用いるのではなく第三世代セファロスポリン系の注射剤が使われています。
適切な抗生剤の投与が行われれば5日以内に解熱を認めることが多く、逆に一週間以上にわたって熱が継続する時は抗生剤の変更を考慮することになります。
当然、抗生剤の選択には薬剤耐性を事前に調べ、適切な投与を行うことが不要な耐性菌の拡大を抑止することにも繋がります。