慢性甲状腺炎(橋本病)の原因
慢性甲状腺炎(橋本病)は、体内のホルモン産生臓器のひとつである甲状腺に慢性的な炎症を起こし、甲状腺ホルモンの産生に異常をきたす疾患です。
甲状腺機能亢進症であるバセドウ病と同じように、橋本病の頻度は女性で数倍から数十倍高く、40才以後に限れば人口の10%前後が橋本病を有しているとさえ言われています。
橋本病の原因が炎症であるとは言え、ウイルスや細菌感染に伴うものではありません。
この疾患は、異物を排除するために存在しているはずの免疫系が自分自身を攻撃してしまう、いわゆる自己免疫性疾患のひとつであると考えられています。
現在のところ、関節リウマチのような他の多くの自己免疫性疾患と同じように、環境因子と遺伝因子の組み合わせによって発症するとされており、一部の遺伝子群に橋本病発症との強い関連を示す遺伝子が見つかっています。
したがって、人種による差は大きいですが遺伝性疾患としての一面も持ち合わせているということが言えます。
炎症により、甲状腺細胞の破壊が進んでしまうと、本来は体内に必要とされるだけの甲状腺ホルモンの分泌ができなくなり、甲状腺機能低下症と呼ばれる状態になります。
一般的には橋本病は甲状腺機能低下症として理解されていますが、実際に橋本病で継続して甲状腺機能が低下するのは実数の1割程度と言われています。
橋本病は一過性に甲状腺機能が亢進することがありますが、甲状腺ホルモン量に大きな変動を示さないこともあり、それぞれの病態によって症状の発症が異なるため、多彩なバリエーションを示す疾患でもあります。
慢性甲状腺炎(橋本病)の症状
甲状腺ホルモンは全身の代謝に関わり、かつ各組織のはたらきの調整を行う重要なホルモンとなるので慢性甲状腺炎(橋本病)では、次に挙げるような実に多くの症状を呈します。
代表的なものは
・寒がりになる
・低体温になる
・徐脈になる(脈が遅くなる)
・体重が増加する
・疲れやすくなる
・眠気を感じやすくなる
・元気がなくなる
・皮膚が乾燥する
・眉や頭髪が薄くなる
・早口ができなくなる
・便通が不良となる
・聴力が低下する
・むくみやすくなる
・息切れが増える
などです。
外来診察において、生気がなく腫れぼったい顔つきをされた方を見かけると、医師は橋本病の存在を疑うことになります。
一方で、甲状腺そのものは大きく腫れあがる場合もあれば、全く逆に萎縮して小さくなっている場合もありますので、甲状腺の視診と触診だけでは正確な診断をつけることはできません。
慢性甲状腺炎(橋本病)の治療方法
実は、慢性甲状腺炎(橋本病)を持っていることが分かったとしても、甲状腺ホルモンの量が適切な範囲にあれば治療の必要はありません。
したがって、定期的に(多くは半年から1年程度に1回程度)血液検査を行うだけで十分であるということになります。
一方で、強い症状を呈しており、血液検査で甲状腺機能の低下が確認された場合は必ず治療が必要になります。
その場合は不足している甲状腺ホルモンを経口的に補い、血液内でのホルモン濃度が適切になるまで徐々に内服薬を増量していきます。
服用量が明らかに過剰にならない限りは非常に安全な薬で、かつ一旦コントロールが出来れば頻回の受診も必要なくなります。
内服の継続によって甲状腺機能が正常化した状態では、日常生活において何の制限もありません。
しかし、非常に特殊な例を除いて多くの場合で生涯に渡る治療を要するので(内服を止めると再度悪化することが殆どとなります)、根気強く続けること、通いやすいかかりつけ医を見つけておくことが治療を進めていく上で欠かせません。
慢性甲状腺炎(橋本病)を放置しておくとどうなるのか
甲状腺機能が著しく損なわれた状態を放置してしまうと、脂質代謝異常症などを通して年齢よりも早い動脈硬化の進展と、深刻な心疾患・脳血管疾患を引き起こす可能性が高まります。
不妊をきたしやすくなることや認知機能障害、甲状腺悪性リンパ腫に移行してしまう可能性もあります。
また、他臓器の自己免疫性疾患を併発すると腎障害を伴った膠原病を発症することがあり、この場合は予後不良となってしまうことが確認されています。
不必要に本疾患を恐れる必要はないですが、上記で述べたようにあくまで治療介入がなされていれば平穏な経過をみることのできる疾患と言えます。
早期の診断と適切な治療の導入が欠かせないので、上記に挙げた症状など継続して自覚することがあれば、まず近くの内科クリニックを受診してみることが大切です。